栃の実の研究
栃の実は、トチノキ(学名:Aesculus turbinata Blume)の種子です。縄文時代の住居跡遺跡から多数出土していることから、縄文時代では主食の一つとして利用されていたと考えられています。現代では、栃の実は、日本各地でとち餅などの製菓原料として利用されています。栃の実には、苦味の強いエスシンと呼ばれるサポニンが多く含まれているため、あく抜きを行ってから利用されます。あく抜きは皮をむいた栃の実をお湯で煮た後、木灰液につけ込んで行います。また、栃の実の皮には非常に多くのポリフェノールが含まれています。当社では、栃の実のサポニンやポリフェノールに着目して研究を進めています。
トチノキ
トチノキの果実
トチノキ種子(栃の実)
《 栃の実のサポニンについて 》
栃の実に含まれているサポニンは、エスシンといわれるサポニンです。下記はエスシンの構造を示したものです。
エスシンは西洋トチノキ種子(マロニエ)にも含まれており、西洋トチノキ種子由来のエスシンを含む抽出物は医薬品、化粧品原料としても用いられています。エスシンは非常に苦味が強い物質ですが、栃の実のあく抜き加工で、アルカリ性の木灰液につけ込むため、エスシンが部分分解されて苦味の弱いデアセチルエスシンやデサシルエスシンに変換されます。
《 栃の実サポニンの機能 》
栃の実サポニンの機能については、国立大学法人島根大学生物資源科学部との共同研究により、下記の機能が明らかとなりました。
・血糖値上昇抑制作用
・脂肪吸収抑制作用
・抗肥満作用
これらの栃の実サポニンに関する研究成果は下記の学術誌にて発表しております。
1) 木村英人,渡邉あい,地阪光生,山本達之,木村靖夫,勝部拓矢,横田一成,あく抜き処理トチノキ種子のサポニン成分の化学構造と血糖値上昇抑制抑制作用,日本食品科学工学会誌, 51,672-679 (2004).
2) 木村英人,地阪光生,木村靖夫, 勝部拓矢,横田一成,あく抜き処理したトチノキ種子から単離されたサポニン成分の血糖値上昇抑制作用と苦味の低減化,日本食品科学工学会誌, 53, 31-38 (2006).
3) Hideto Kimura, Satoshi Ogawa, Mitsuo Jisaka, Yasuo Kimura, Takuya Katsube, Kazushige Yokota, Identification of novel saponins
from edible seeds of Japanese horse chestnuts(Aesculus turbinata BLUME) after treatment with wooden ashes and
their nutraceutical activity., Journal of Pharmaceutical and Biomedical Analysis, 41, 1657-1665 (2006).
4) Hideto Kimura, Satoshi Ogawa, Mitsuo Jisaka, Takuya Katsube, Kazushige Yokota, Antiobese effects of novel saponins from
edible seeds of Japanese horse chestnut(Aesculus turbinata BLUME) after treatment with wooden ashes.,
J.Agric.Food Chem, 56, 4783-4788 (2008).
《 栃の実サポニンに関する特許 》
1) 特許第4741899号 血糖値上昇抑制剤の製造法及び血糖値上昇抑制剤
2) 特許第4958452号 リパーゼ阻害剤およびリパーゼ阻害剤の製造法
栃の実の皮由来のポリフェノール
栃の実の皮には、非常に多くのポリフェノールが含まれています。栃の実ポリフェノールの主成分はカテキンやエピカテキンが重合したプロアントシアニジンです。特徴的なのは分子内に機能性に重要な役割を果たすA-タイプインターフラバン構造を多数有していることです。
栃の実ポリフェノールの機能
1.脂肪吸収抑制作用
食事に含まれる中性脂肪は、体内でリパーゼという酵素で分解されてから、小腸から吸収されます。したがって、リパーゼの働きを緩やかにすると、脂肪の吸収が抑制されます。栃の実皮に含まれているプロアントシアニジンは、このリパーゼの働きを抑えて、脂肪の吸収を抑制します。
下記は、マウスに、高脂肪食を与え、栃の実ポリフェノール飲料(ポリフェノール含量0.26%または0.52%)を飲用させ19週間飼育したときの肝臓組織の写真です。
標準食群では健常な肝臓の組織像が観察されましたが、高脂肪食群では、ほとんどの肝細胞が肥大し、明らかな小滴性または大滴性脂肪が確認されました。これらの肝細胞の肥大や大小の脂肪滴を伴う組織の重篤な変性は、栃の実ポリフェノール飲料の投与により用量依存的に抑制されました。
2. ヘリコバクター・ピロリ付着抑制作用
ヘリコバクター・ピロリは、らせん状のグラム陰性桿菌で、胃粘液中に浮遊するか、胃上皮細胞に付着して増殖します。このヘリコバクター・ピロリの感染が、慢性萎縮性胃炎や胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃がんなどの発症に深く関与しているといわれています。先進国では近年の衛生状態の改善により保菌者は減少傾向にあるものの、高年齢層での感染率は依然高く、日本においても、40歳以上では70%以上が感染者であるといわれています。
このような背景のもと、栃の実ポリフェノールのヘリコバクター・ピロリの感染初期段階と考えられる胃粘膜細胞への接着抑制作用について調べたところ、比較的低濃度で有効であることを確認しました。胃がん細胞MKN45に対するヘリコバクター・ピロリの接着抑制効果を調べた結果を下記のグラフで示しました。栃の実ポリフェノール濃度が12.5μg/mlの濃度で約50%の接着抑制効果が確認されました。
3.その他の機能
- 糖質分解酵素阻害による血糖値上昇抑制作用
- 抗酸化作用
- 抗がん剤(メトトキレサート)投与時の副作用である小腸炎の低減効果
これらの栃の実ポリフェノールについての研究成果は下記の学術誌にて発表しております。
1) Satoshi Ogawa, Hideto Kimura, Ai niimi, Takuya Katsube, Mitsuo Jisaka, Kazushige Yokota, Fractionation and structural
characterization of polyphenolic antioxidants from seed shell Japanese horse chestnut(Aesculus turbinata BLUME).,
J.Agric.Food Chem, 56, 12046-12051 (2008).
2) 小川智史,木村英人,新見愛,地阪光生,勝部拓矢,横田一成,トチノキ(Aesculus turbinata BLUME)種皮ポリフェノール成分の構造解析と糖質消化酵素に対する阻害作用, 日本食品科学工学会誌, 56, 95-102 (2009).
3) 木村英人,小川智史,新見愛,地阪光生,勝部拓矢,横田一成,トチノキ種皮由来プロアントシアニジンの脂肪吸収に対する阻害作用, 日本食品科学工学会誌, 56, 483-489 (2009).
4) Hideto Kimura, Satoshi Ogawa, Akihiko Sugiyama, Mitsuo Jisaka, Yasuo Kimura,Takashi Takeuchi, Kazushige Yokota,
Anti-obesity effects of highly polymeric proanthocyanidins from seed shells of Japanese horse chestnut (Aesculus turbinata Blume).,
Food Research International, 44(1), 121-126 (2011).
5) 國方敏夫,河野恵三,牛尾慎平,木村英人,小川智史,福田恵温,トチノキ(Aesculus turbinata Blume)種皮ポリフェノールによる
Helicobacter pyloriの胃癌細胞 株MKN45への接着抑制作用,生薬学雑誌, 65(1), 43-49 (2011).
6) Hideto Kimura, Satoshi Ogawa, Takashi Akihiro, Kazushige Yokota, Structural analysis of A-type or B-type highly polymeric
proanthocyanidins by thiolytic degradation and the implication in their inhibitory effects on pancreatic lipase.,
Journal of Chromatography A, 1218, 7704– 7712 (2011).
栃の実ポリフェノールに関する特許
1) 特許第5172531号 リパーゼ阻害剤,抗酸化剤,糖質分解酵素阻害剤および薬剤の製造法
2) 特許第5406085号 ヘリコバクター・ピロリ接着抑制剤